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冒頭、ホルンの美しいレガートを従えて、チェロのスピード感溢れるテヌート(決してレガートではない)によって演奏されるべく清々しく飛翔するテーマは、想像するだけでゾクゾクします。 この美しい交響曲の版による大きな違いは、幸か不幸か第2楽章・アダージョで打楽器が鳴るか鳴らないか位しかありません。鳴るのがノーヴァク版や初版で、鳴らないのがハース版というわけです。打楽器追加の是非に関しては詳しく研究している人たちに任せます。 その意味で、最近聴いた演奏ではチェリビダッケとベルリンフィルによるフィナーレは、素晴らしい演奏だと思いました(第1・第2楽章は流石にテンポがノロ過ぎでしょう)。 で、ぼくがこの交響曲を最初にレコード(LP)で聞いたのはマタッチ指揮チェコフィルのものでした。次に聞いたのはシューリヒトだったかな…。もう30年も前の話です。 そんなわけで演奏会では朝比奈ばかり聴く機会が増え、ハース版のスコアを買いました。その後ノーヴァク版も買ってスコアを眺めながら聴いたりすると、どちらでもない音のする演奏がけっこうあることに気づき、それが改訂版(初版)によるものだと知りました。 初版のスコアは持っていないので、やすのぶさんと壁男さんに分かり易い違いをうかがったりしていたのですが、物忘れが激しいので聴いて分かる初版の特徴(ノーヴァク版との違い)を5つのチェックポイントとしてまとめておくことにしました。 初版を含め多くの録音がある指揮者としてマタチッチとヨッフムを中心にいくつか聴いてみたら、一つの版をそのまま使うことはほとんどなく何らかの手を加えていることが多い、ということが分かりました。 |
【1】フライングホルン:第1楽章24小節・・・提示部 チェロとホルンにより夫々のアーティキュレーションで始まった清々しい第1主題が、今まさにヴァイオリンと木管へ受け継ごうというその時、ホルンが半拍先に実音Hを吹く。とっても分かり易い。 |
【2】駆け降りるクラリネット:第1楽章306小節・・・再現部 展開部の終わりで第2ヴァイオリンとクラリネットにより何度も繰り返される第1主題が、やっとホ長調で再現したあとの第2主題への受け渡しの時、8分音符で駆降りるクラリネットの実音Cesが1音高いDだ。けっこう分かり易い。 |
【3】上昇したい第2ヴァイオリン:第1楽章339小節・・・再現部 クラリネットと一緒に第2主題を奏する第2ヴァイオリンが途中から1オクターヴ上も追加される。うっかりしてると聞き逃す。 |
【4】地鳴りのコントラバス:第1楽章393小節以降・・・コーダ ティンパニと一緒に実音Eを弾き始めるコントラバスが、3小節目で消えないでずっと弾き続ける。よほど録音が良くないか強めに弾いてないと分からないかも。 |
【5】彼岸へのワグナーテューバ:第2楽章189小節・・・コーダ 彼岸へ到達すべくテューバのアンサンブルに慟哭のホルンが叫ぶ1小節前。メロディラインのテナーテューバの4拍目の音がEsでなく半音高いE。うっかりしてれば分からないが、意識があるとやや神経に障る。 |
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フライングHr |
駆け降りるCl |
上昇したいVn |
地鳴りのCb |
彼岸のWTub |
Pizz. |
マタチッチ指揮 チェコフィル<1967> |
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マタチッチ指揮 NHK交響楽団<1969> |
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マタチッチ指揮 ウィーン交響楽団<1980> |
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マタチッチ指揮 スロヴェニアフィル<1984> |
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ヨッフム指揮 ベルリンフィル<1964> |
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ヨッフム指揮 ウィーンフィル<1974> |
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ヨッフム指揮 ドレスデン国立o.<1976> |
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ヨッフム指揮 フランス国立o.<1980> |
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ヨッフム指揮 コンセルトヘボウo.<1986> |
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クナッパーツブッシュ指揮 ウィーンフィル<1949> |
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クナッパーツブッシュ指揮 ケルン放送so.<1963> |
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シューリヒト指揮 ハーグフィル<1964> |
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シューリヒト指揮 ベルリンフィル<1964> |
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ベイヌム指揮 コンセルトヘボウo.<1953> |
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ワルター指揮 コロンビア交響楽団<1961> |
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チェリビダッケ指揮 シュトゥットガルトRso.<1971> |
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チェリビダッケ指揮 ミュンヘンフィル<1990> |
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チェリビダッケ指揮 ベルリンフィル<1992> |
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ザンデルリンク指揮 シュトゥットガルトRso.<1999> |
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レークナー指揮 ベルリンRo.<1983> |
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ヴァント指揮 ケルンRso.<1980> |
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*【おまけ】のPizzはアダージョの最後の部分のこと。初版とノーヴァク版は同じだから「×」はハース版ということ。 *「?」は残念ながら聞き取れなかった。 |
●コメント マタチッチはチェコフィルとの演奏は初版のはずなのにアダージョのテナーテューバ【5】は、初版になっていない。にもかかわらず、スロヴェニアフィルとの演奏はノーヴァク版なのに、その部分【5】は初版の音に変更している。 ヨッフムは初版とノーヴァク版を使っているが、いつの演奏でも第1楽章のクラリネット【2】は原典版で、アダージョのテナーテューバ【5】は初版だ。ポリシーがあるといえる。でも結局、どれも“完全初版”にも“完全ノーヴァク版”にもなっていないという矛盾。 クナとシューリヒト(アダージョのピツィカートの位置はハース版だ)は、おそらくほぼ完全初版による演奏だとおもわれる。特にクナ/ウィーン盤とシューリヒト/ハーグフィル盤は第1楽章・コーダのコントラバス【4】を弾いていることが確認できる貴重な演奏といえるかもしれない。 ベイヌムは初版による演奏に違いないがアダージョのティンパニに問題がある。なんと、本来のたぶん1小節前(176)からGisでそっとトレモロで入りクレッシェンドしてGとなる。気持ちは分からなくもないが余計なこった)*o*( ワルター盤はハース版と思われるが思わぬところに初版の影響がある。 チェリビダッケはシュトゥットガルトとの演奏だけ違う。ハース版を基本にしているのは確実だが、部分的に引用しているのはノーヴァク版ではなく初版だという推理が出来る。 レークナーはともかく、ヴァントが駆降りるクラリネット【2】とテナーテューバ【5】が初版なのにビックリだ。全然ハース版信奉者じゃないじゃん。ノーヴァクじゃなきゃイイってことか? この表には書いてないけど、朝比奈もジャンジャン盤や聖フローリアン盤ではテナーテューバ【5】が初版の音だ。 尤も、ごちゃまぜになった版の演奏になるのは、パート譜のせいではないかという意見もある。 |