朝日奈隆の話


HOME

酒談・楽談から

 太古我々の祖先が神前に供した酒は、純潔の処女が白米を口中に噛んで器中に吐き醸したものと言う。よき米とよき酵素とで文字通りかもされたその濁酒の香り高き風味を知るは、ただに祖宗の大神のみではない。

 由来、酒は醸されたまま味わうべきもので、蒸留された酒である焼酎の類は、特別の貯蔵を経たもの、たとえばスコットランドの古ウィスキーや上等のブランデー以外はまず下酒であると私は考える。話にきく野猿が樹孔に果実を噛んで造るというサル酒もあるいはさぞかしの美酒ならんと思えぬこともない。

朝比奈隆著「この響きの中に(実業之日本社)から

HOME


inserted by FC2 system