お酒の本


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ブログに書いた読書記録をほぼそのまままとめました。現在では考えが変わったこともあります。自分が当時そう思ったという記録ってことで(^^ゞ

宇治田福時『酒通入門 お酒は民族の文化なり』地球書館

蝶谷初男『決定版 日本酒がわかる本』ちくま文庫

小泉武夫『日本酒百味百題』柴田書店

秋山裕一『日本酒』岩波新書

高瀬斉『ツウになるための日本酒毒本』洋泉社

古川修(よしみ)『世界一旨い日本酒』光文社新書

上原浩「純米酒を極める」光文社新書

農口尚彦「魂の酒」株式会社ポプラ社

蓮尾 徹夫 「日本酒鑑定官三十五年―おいしい日本酒の造り方、味わい方 」並木書房

高浜 春男 「杜氏 千年の知恵」祥伝社

篠田次郎「吟醸酒への招待」〜百年に一つの酒質を求めて、中公新書

和田美代子著(高橋俊成監修)「日本酒の科学」、講談社ブルーバックス



●宇治田福時『酒通入門 お酒は民族の文化なり』地球書館
(1980年11月1日第1版発行、1999年6月1日第10版発行)
購入価格:¥1,000。

宇治田福時さん、むちゃくちゃ言うなぁ・・・(>_<)

先日購入した「酒通入門」を少しづつ読んでいる。
「モンゴル・酒・女」という章にはアイラグという「馬乳酒」の話が書いてある。“ソ連”ではクムイスというそうだ。

名前の通り馬乳酒は馬の乳から作るのだが、2〜3日かき回すだけで出来上がりというのには驚いた。尤もアルコール度は2〜3%らしい。
酒呑み用の酒というより、栄養ドリンクとしてたくさん飲まれているらしい。
興味深い話が一杯だ。

で、何がむちゃくちゃかというと111ページにこんなことが書いてある。

野菜のほとんどないモンゴルでは、これら乳製品が我々のいう野菜代わりになるらしい。
なぜなら、ラクダ、ヤク、馬、牛、羊などの乳は全て、牧草を喰べた結果の産物であるから、モンゴル人は乳製品によって、間接に草原の植物を喰べていることになるのであろう。

福時さ〜ん、こりゃ無理な話ですぜい(^_^;)
だいたい、なんの疑いもなく野菜をたくさん食べることが健康的だという考えがあるんだろうけど、野菜に何の栄養素を期待するかで何が代わりになるかは変わってくる。

野菜が健康的食品の必須のものだという前提を正しいと仮定しても、「乳製品によって、間接に草原の植物を喰べていることになる」ってのは無茶だ。ってゆ〜か、可笑しくて笑っちゃう。
野菜嫌いの子供に、牛乳をいっぱい飲めば良いんだよって言ったら喜ぶだろうなぁ)*o*(

(2006/5/1)

揚げ足取りのツッコミをした宇治田福時さんの『酒通入門』だが、記述が古いのは仕方ないとして、ほとんどはうなづける良い事ばかり書いてある。

酒はどこの国でも文化に密接につながっていて自国の酒をとても大切にしている。だからこそ、日本の酒である日本酒は日本という国がもっと大切にしなくてはいけない、という内容なのだ。

この本によるとアルコール添加が初めて行われたのは昭和19年だと。敗戦の直前の年だ。
極度の物資不足の時だから米も当然ない。財政も破綻寸前だから、酒税を増税していっぱい飲んでもらおうってことだ。
しかし、米がなければ酒も造れないのでアル添という事になったらしい。

糖添加はいつかというと昭和24年だと。
これは添加するアルコール量をいっそう増やすためという事だ。
アルコール量が増えれば当然日本酒の味わいが無くなるので糖で誤魔化そうという手段なわけだ。

これらは戦中戦後の異常事態の出来事。
酒造りの米が不足していた時代の出来事なのに、米が余っている現在まで続いている事がおかしいのだ。

こういう事はおかしいとどうどうと言って、純米酒しか作らない玉乃光酒造や招徳酒造は本当に立派だと思う。
後はへんてこなトンデモ水や、音楽を聴かせて醸すと美味しくなるなんて似非科学に引っかからないよう祈るばかりだ)*o*(

(2006/5/5)

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●蝶谷初男『決定版 日本酒がわかる本』ちくま文庫
(2001年6月6日第一刷発行、2002年1月10日第二刷発行)
購入価格:¥1。

これは語りかけるような文体で読みやすく、また同じことを何回も説明するのでとても分かりやすくて良い。しか〜し、今回読んだ本の中で最も怪しい記述が多いと感じた。明らかに間違ったことも書いてある。

最も驚いた記述は、山廃の説明だ。
山廃は山卸(もと摺り)という作業を廃止したってのは良いけど、その山卸の意味は精米歩合を高めるためにあると書いてある。
そんなバカな!
山卸は、麹の出す酵素が働きやすくなるように蒸米と摺り合わせることのはずだ。蒸した米を櫂で削るってのか!?

ほかにも酒業界の人がよくいう、熟成に関するトンデモ話などが書いてある。味がまろやかになるのはアルコール分子のまわりを水分子が取り囲んで云々ってヤツ。

せっかく分かり易く書かれた本なのに、間違いが多いと他の部分も疑いを持って読まねばならなくなるところがつらい。
吟醸酒にはアルコールを使うべきで、純米吟醸酒はランクが下だなんて物言いにも驚く。それは旨い純米吟醸酒を作っている蔵に失礼でしょう!
純米吟醸を造らない菊姫はそういうポリシーでやってんだから仕方ないけど、おまえが言うなって感じ。ってか、この人、単なる菊姫の受け売りを一般論にあてはめようとしているだけか?

(2007/5/11)

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●小泉武夫『日本酒百味百題』柴田書店
(2000年4月30日初版発行、2004年1月10日六版発行)
購入価格:¥539。

これは100の項目に分けて、1項目読み切りにしてあるので事典のようにも使えて便利だ。すごく勉強になる。
記述のしかたも偏った感じがなく信用出来そう。

市販の酒は変質による着色を疑った方がよいなんて書いてあるのが「ええ!?」って感じだけど、本来の酒は着色しているということも書いてあるし、無濾過についても書いてある。この本の出版時はそういう状況だったのだろうか?

また、燗をした方がゆっくり飲むから悪酔いしにくいとも書いてあるけど、ぼくは正反対だ。冷めないうちに飲もうとしてはやく呑んでしまう)*o*(

醸造アルコールとは何か》という項にはこう書かれている。

日本酒の原料用アルコールは、主にでんぷん質を糖化したものや、廃糖蜜を発酵させた後に蒸留して造られる95%のエチルアルコールであり、いわゆる合成アルコールなどは一切使用されていない。・・・中略・・・現在は、海外から輸入した粗留アルコールを蒸留精製することが多い。

これが本当だとしたら、デンプンならなんでもよく、元の原料には何も規制が無いことになる。江戸時代の柱焼酎みたいに米から作ったエタノールのみとすれば、まだいいのにと思う。奥の松酒造株式会社がそんな吟醸酒を造っているようだが、『全米吟醸』なんて名前が紛らわしい。『全米アル添吟醸』とすべきだ。
または、純粋なエタノールとすればいちばん良い。要するにほぼ100%の無水エタノールってこと。そうすれば醸造だろうが合成だろうが関係ない。

どうせアル添するなら奥の松のようにするか、ピュアなアルコールを使えばいい。尤も、ピュアなアルコールは製造コストの方が高くついてしまうんだろうなぁ・・・。

(2007/5/12)

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●秋山裕一『日本酒』岩波新書
(1994年4月20日第一刷発行)
購入価格:¥1。

いかにも酒造りに魅せられた研究者の本って感じで、酒への愛が溢れそうになりながらも客観的に淡々と書かれている。
酒の歴史から日本酒の造り、そして販売者と消費者についてまで言及している。
「のどごし」の項には、アルコール分子が水分子に包み込まれるといったトンデモ説明もあるが、『と説明されている。』に留まり、断定していないところは流石といえる。

浸漬(しんせき)から蒸米の難しさ、泡なし酵母発見から実用化の話、火落菌がコレステロールの原料となるメバロン酸を必要としている話は「日本酒百味百題」にも書かれているけど、現場の研究者なだけあってその記述はよりドラマティックだ。

普通の日本酒酵母がビールの上面発酵酵母と同じで、泡なし酵母が日本でいう普通の下面発酵ビールと同じってのは、納得。

良い本ヽ(^O^)

(2007/5/14)

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●高瀬斉『ツウになるための日本酒毒本』洋泉社
(2002年11月21日初版発行)
購入価格:¥139。

な〜んだ、やっぱぼくの言いたいことをとっくに言ってる人がいるじゃん!って感じの本だ。へぇ〜な話も満載。
純米酒以外はリキュールだって言いきってるのはこの人かぁ!

著者は、日本酒を愛しているから、日本酒業界に元気になって欲しいから言いたいことが一杯あるのだ。
『生貯蔵酒=生詰酒』になってしまう論理から、『算数酒』とか『二度燗冷ましした酒』など、笑いながらも「な〜るほど」とうなづいちゃう話も多い。『無濾過』の話もある。

『振れば振るほどおいしくなる?』なんて怪しい話もあるけれど、曖昧な結論への持っていき方、オチが上手い。

そして、アル添酒に使われる醸造アルコールの原料がなんだか分からなくて気持ち悪いという話は、ぼくの提案を支持することにつながらないか?
すなわち、100%に近いアルコール、無水エタノールを使えばってこと。
不純物がゼロに近いアルコールだったら原料がなんだろうと関係ない。醸造にこだわることも無いって。著者曰く、アル添酒は醸造酒でなくリキュールなんだから。

この人の言ってることは、ほとんどが尤もだと思う。

ただ、料理と酒の相性の話の中で、ワインは口に入れた料理を一緒に流し込むけど、日本酒は料理を飲み込んでから呑む、だからワインと料理の相性は問題になるけど日本酒はそれほど問題にならない、とある。
これはどうかな?

日本酒だってワインだって、料理が口に残って入る時に呑むこともあるし、完全に飲み込んでから呑むこともあるんじゃないか? 問題になるかならないかの結論はともかくとして、その理由付けは違うと思う。

それと、28ページの速醸モトの説明で『人工的に乳酸菌を添加してやるのが速醸法なんです。』とあるが、《乳酸菌》でなく正しくは《乳酸》だ。

今度生酒を呑む時は、一度60℃まで燗して40〜45℃くらいに冷めてきたところを呑んでみようかなぁ・・・。
悪く言えば生酒の燗冷ましだけど、この著者の論理でいけば、火入れ一度の酒の出来たてってことになるもんな)*o*(

(2007/5/16)

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●古川修(よしみ)『世界一旨い日本酒』光文社新書
(2005年初版第1刷発行)
購入価格:¥735(定価)

良くも悪くも、とっても面白い本だった。
燗酒をすすめること、そして日本酒が常温保存で熟成が進むというのはともかく、生酒ですら常温保存で旨くなるという主張には驚いた。
さらに著者は、本物の酒は燗冷ましでこそ真価を発揮すると言い切っている。

燗冷ましは不味いと思い込んでいたが、よく考えてみると、けっこう燗冷ましを呑んでいる。
だって、温燗で呑んでいると徳利の最後のほうはどうしても冷めてしまうから。かといって、それが不味いと感じたことはない。

そう、ぼくの燗冷ましが不味いという思い込みは、むか〜し呑んだ熱燗の燗冷ましから来ている。しかも、もともと不味い酒を熱燗にしたものだから、不味いに決まってるじゃないか。
不味くて呑めない酒を熱くして味が分からなくして呑もうって魂胆の末、冷めちゃったら輪をかけて不味いことだろうって。
『燗冷ましでこそ真価を発揮する』ってのは言い過ぎだろうが、燗冷ましへの偏見をぬぐうことは出来た。

まあ、だからって積極的に燗冷ましを呑もうとは思わないけど。

日本酒は味乗りと劣化が同時に進むが、冷蔵すると味乗りがほとんど進まずに劣化だけが目立つことになる。』ってのは意味が分からん。こういう非科学的な部分は、言ったもの勝ちのような気もする。

また、蒸留酒のほうが翌日残らないとか、純米酒なら二日酔いにならないなんて記述はこの人以外にもよく見かけるが、話は簡単。呑み過ぎれば残るのだ。
ただ、アルコール代謝に必要な栄養素が十分にあるかないかは、その場はともかく後々大きく健康に響いてくると思われる。

「本物の酒造りの蔵」という項ではいくつかの造り酒屋が紹介されているが、酒への愛に満ち溢れた努力の物語がとても興味深く感動的ですらある。
昔呑んだ大阪の秋鹿は、蝿帳(はいちょう)臭かったので二度と呑むまいと思っていたが、全量純米の優秀な蔵だと紹介されている。もう一度飲み直すべきかと考え中だ。

お決まりのトンデモ記述もある。
東京大学工学部出身という肩書きの人が『物理変化としては、醸造したばかりの日本酒はアルコール分子同士、水分子同士がそれぞれ結合して、クラスターと呼ばれる集団状態になっているが、熟成してくるとアルコールと水の分子が混ざった状態のクラスターになり、味がまろやかになる。』なんて書いたら、それこそほとんどの人が信じてしまいそうだ。

燗をすると酒の分子と水の分子がよく混ざり、一緒にクラスターを構成して、まろやかな味わいになる』ってのもウソだと思う。
燗をすると温度が上がる、温度が上がるというのは分子運動が速くなるということ。分子運動が速ければクラスターを構成する時間はいっそう短くなることだろう。

液体分子のクラスターを測定する術が無いというのだから、この説を完全否定することは出来ないのかもしれない。しかし、既に否定されたNMRによる松下和弘理論が元にあるのなら、全くインチキな記述だ。

本当に真摯な造り酒屋は「クラスター」とか「酒に音楽を聞かせる」とか「振動を与える」なんてヘンテコなことを言ったり、したり、しないだろう。

(2007/6/8)

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●上原浩「純米酒を極める」光文社新書
(2004年2月5日 5刷発行)
購入価格:¥788(定価)

こりゃぁ、ほとんど納得。
今まで読んだ数冊の本の内容を考察してみても、最も真っ当なことを言ってる人じゃないか?

『酒は純米、燗ならなお良し』が著者の基本ポリシーとのことだが、記述に押しつけがましさがないのが良い。
あくまでも味は好み、好きな温度で呑めばいいのだ。

酒造りに関する机上の理論では分からない、現場ならではの記述も嬉しい。

まず《アル添酒》があり、
◆《アル添酒》 - 【アル添】 = 《純米酒》
◆《純米酒》 - 【乳酸添加】 = 《山廃》
◆《山廃》 + 【山卸】 = 《生モト》
と考えるからおかしいというのは、な〜るほどと納得。
《山廃造り》に《山卸》を追加すれば《生モト造り》になるのではないし、《本醸造》の酒造りから《アル添》をやめれば《純米酒》になるわけではないという。

最初に造りを決め、それによって基本工程に微妙な違いが出てくる。いわゆる職人技。そこには理論的に解明されていないことも多いことだろう。
《山廃》がある現在、《生モト》の価値が理解できなかったが、やっと納得できる記述にめぐりあった。

山廃でいこうとして蒸米を作り、途中で「やっぱ生モトにしようっと」ってな変更は出来ないってことなんだ。
いわれてみれば当たり前って感じもするが、大手の液化仕込みの純米酒があるなんてのを聞くと、シロートのぼくが理解できなかったのも仕方あるまい。

何となく分かるけど、今一すっきり理解できないのが良い酒の条件とする醪の「完全発酵」だ。
完全発酵だと『醪内の糖分をほぼ分解しつくしたところで酵母が衰弱し、発酵が止まる。』とある。
そうすると杜氏の仕事は、糖分がほとんど無くなるまで、発酵が終わるまで酵母を生かすことにあるような気がしてくる。
泡などを見て聞いて適当だと判断したところ(途中)で発酵を止めるのが杜氏の仕事だと思っていたから、これには違和感があるのだ。

ぼくが言いたいのは、発酵が止まるのを待つのでなく、杜氏の意思で止めるのではないかってことだ。

するとこんな記述もあった。
純米づくりは、アル添で調整すればいいアル添の酒と違い、発酵を思い通りのところで止めるのが非常に難しい。
これですよ! これこれ!!
これが杜氏の腕の見せ所じゃないかって思う。

すると、完全発酵って言葉と矛盾しないだろうか・・・?

また、著者は【日本酒】と【清酒】を区別しようと提言する。
つまり【日本酒】といったら【純米酒】のことで、アル添酒を【清酒】と呼ぼうということだ。

アル添酒の価値を認めないわけではなく、ハッキリ区別して【日本酒】をくれといったら【純米酒】が出てきて欲しいってことだ。
日本酒には【醸造酒タイプ】と【リキュールタイプ】の2種類があるという高瀬斉と同じことを言ってるわけだ。
どちらの名称を使った方が良いかは判断がつかないが、主旨は大賛成。

また、『私の教えを受けた人たちは、どういうわけは私以上に口が悪くなり、・・・』ってのは、何となくネットからの情報で理解できるような気もする(^^ゞ
自分は『毒舌チャンピオン』と呼ばれているなんて書いてあるし、著者を評して『横柄で尊大な文体、突き放した辛口なだけの言い草』なんていう人もいるが、少なくともぼくにはそんなことは気にならない。
とても良い本だと思った。

また、名前は出していないが、あきらかに蝶谷初男のことをいってる記述もある。
ぼくが書いたことと同じことが書いてあるじゃん。嬉しいね〜。
菊姫のような蔵も認めるけど、一般論としては違うよってこと。

それにしても、純米酒を広めようとしている人たちは、多少考えが違っていても貶しあったりせず、力を合わせて頑張って欲しいものだ。
偏屈なクラヲタみたいになって欲しくはない。

(2007/6/9)

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●農口尚彦「魂の酒」株式会社ポプラ社
(2003年12月10日 第1刷発行)
購入価格:¥800(中古)

農口尚彦(のぐちなおひこ)の話を塩野米松という人が聞き書きした「魂の酒」という本だ。
感動、というか納得、というか、この農口さんこそプロフェッショナルな杜氏だと思った。
尤も、他の杜氏の本など読んだことがないけど・・・。

まず感服するのは、驚くべき理論家だということだ。
その理論はあくまでも旨い酒を造るのが目的であって、楽して大量生産するためのものではない。

水分や湿度や数値になるものはそれを追いますが、他にも握った感じや、噛んだときの硬さ加減、香りなど人の感覚をフルに使って麹を育て上げるんです。

数値化出来るものはとことん数値に頼り、出来ないものは官能に頼る。
綿密なデータの蓄積こそ職人的直感の源になる。失敗してみなければ分からないこともあるという。
菊姫前社長・柳辰雄との素晴らしき共同作業。

造りに関してもけっこう細かいことにまでつっこんで書かれていて勉強になる。
「上槽」の項では、タンクごとのに味の違いがありブレンドして出荷する話もある。
なかにはこのタンクをこのまま飲ませてやりたい』と思うけれど『しかし商品ですから、その品目毎の容器を均一にするんです。』は、至極当然と思われる。

「初めの教え」という項にはこんな記述がある。
『 菊姫では、わしは大学出とる者も、出ておらん者も、仕事を全部教えたんです。ですから仕事に関することはきちっとやってくれます。
 だけど、わしの酒造りまでは教えられなんだね。これは教えられるもんじゃないかもしらんですね。どんな酒を造るかは、その人の酒に対する考え方ですから。

また菊姫の弟子には『本当のものをつかもうという職人になる気構えのものは一人もいなかったんです。』ともある。

その他「菊姫の弟子たち」の項を読むと、現社長・柳達司との意見の食い違いもかいてある。
う〜ん、菊姫のマイスター制度は大丈夫なのか!? 凄く不安になるなぁ・・・(-_-メ)

菊姫の本仕込み純米酒『平成8年度』と『平成11年度』の違いは、農口さんが辞めたことに原因があるわけではなかろうな・・・(-_-;)

それにしても農口さん、「菊姫」や「常きげん」だけでなく、静岡の「大村屋酒造場」にも関係していたとは、びっくりだ。
ぼくが最初に農口さんの名前を認識したのは「常きげん」のラベルからで、あとで「菊姫」で有名になった杜氏だと知った。そして、大村屋酒造場の酒は、初めて旨いと思った静岡の酒だ。

勝手に、農口さんとは縁があると思い喜んでいる(^^ゞ
農口さんが元気なうちに「常きげん」をたくさん呑んでおこうと、心に誓った。

それにしてもインタヴュアーが優秀なのか、まるで農口さんが直接語りかけてくれような錯覚に襲われる、本当に素敵な本。

(2007/8/24)

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●蓮尾 徹夫 「日本酒鑑定官三十五年―おいしい日本酒の造り方、味わい方 」並木書房
2004年10月5日発行
購入価格:¥600(中古)

日本酒について、いろいろな角度から書かれていてなかなか面白かった。
公平な書き方とも言えそうだが、やや役人臭もあるかな〜(^^ゞ

「日本酒健康法」なる項には、酒呑みの立場から涙ぐましいまでの健康効果が並べてある。
血液サラサラから高血圧、ガン、糖尿病、健忘症、老化、アレルギー・・・、ミラクルだ!

肝硬変を防ぐアミノ酸まで含まれているということで、こんな句まで詠っている。

《アミノ酸 あれこれ買うより 日本酒飲もう》

んなバカな!!

「酒と肴の相性」という項には、利き酒の出来る12人のパネリストによる結果が紹介されている。
44の肴と三タイプの日本酒の相性を調べた結果とのことだが、淡麗タイプの酒と辛口タイプの酒の相性の悪いものに『チョコレート』が入っているのだ。

チョコレートを肴に日本酒をやる人がいるのかって想像しただけで気持ち悪いが、甘口タイプの相性の悪いものにはチョコレートと書いてない。
ってことは甘口タイプの酒の肴にチョコレートがありなのか!?

そのほか相性の悪いものにステーキとかビーフシチューなんて書いてあるけど、そんな高級なもので呑んだことがないから分からないなぁ・・・(・・;)

それにしても、著者の笑顔はとってもステキ!

(2007/9/2)

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●高浜 春男 「杜氏 千年の知恵 」祥伝社
平成15年2月25日初版第1刷発行
定価:¥1,600+税、図書館から

高浜春男は、昭和2年、新潟県寺泊町野積生まれ。昭和34年、32才の時に八海醸造へ迎えられ、平成12年、73歳まで『八海山』の杜氏を務める。

この本も『おらも、ほんの子供の頃から・・・中略・・・というわけですて。』といった感じの訛った話し言葉で書かれている。
「取材・構成:井出耕也」とあるから、この人がインタヴューして書き起こしたということだろうか。

農口さんと同様、ある程度のものを極めた職人の話は、実に興味深く面白い。
志の高い杜氏と、それを育む環境を持つ蔵元との幸せな出会いは、良い酒が出来るための必須条件かと思えてくる。

ただ、農口さんとはけっこう違いが感じられる。
この高浜さんの話を聞いていると、農口さんより一世代古い杜氏なのかと思った。しかし、農口さんは昭和7年生まれだから5歳しか違わない。
農口さんの職人的合理思考が際立つ。
そして、人としての器の大きさをも感じさせるのが農口さんだ。

八海山の酒質の高い理由も理解出来るが、精米歩合の低さにこだわり《良い酒》をつきつめて《端麗辛口》に至ったってのを読むと、やはりぼくの好みとは違うなと思った。

本を読んでいて、農口さんの酒は強く飲みたいと思ったが、高浜さんのはまあイイかって(^^ゞ
実際、高浜さんは既に杜氏をしてないようだし、念のために八海山を調べてみたら3,000円以下の純米酒がない。

5月に古登富貴さんで呑んだ八海山の純米酒は、純米吟醸だったのかな?

(2007/9/4)

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●篠田次郎「吟醸酒への招待」〜百年に一つの酒質を求めて、中公新書
1997年10月25日発行
購入価格:¥30(中古)、送料¥340、

今、吟醸酒が市民権を得たといっていいのか分からないが、少なくとも日本酒好きの間には一定の高評価を得た一つのブランドになっている。
ただ、清酒の分類法が規定されているので、その条件に合えばどんなにまずかろうと吟醸酒と呼べるので、レヴェルの低い酒蔵の酷い吟醸酒もあるのが現状だ。

こうなるまでの経緯が述べられているが、味の傾向の変化に大きな流れがあるという。同じ蔵のものでも変化しているというわけだ。これは杜氏が代わって味が変わってしまうのとは意味が違う。

初めて吟醸酒を呑んだのは25年くらい前だが、日本酒とは思えないフルーティな香りと、その香りに似合った美味しい甘さが爽やかで感動したものだ。
その時ですら香りが強すぎるものや、爽やかとはいえ甘いだけのものがあった。それでも、その時は純米で吟醸酒ならまず間違いない旨い酒だったと思う。だいたい、値段も高かった。
吟醸酒といえば、まずあのフルーティな香りを連想したものだが、今は違う。吟醸酒ですらバラエティに富むようになったのだ。
この自分の飲酒歴を思い起こしながら読むと、なるほどそういうことかとうなづける。

酒造業界の疑問点も挙げてあり、やはり自分がおかしいと思うことは先人が感じているんだなと、安心した。というか、酒造業界は進歩が遅いか!?
アルコール添加をよしとするなら、最低そのアルコールの原料を明確にせよなんて情報公開を求めてもいる。

その他「ビンカン法」「やこまん」の説明もあるし、炭素濾過が「醸造技術」なのか、それとも「加工技術」なのか議論されたなんて記述もある。これ、もっと議論されるべきじゃないか?
こういったことは、濾過助剤のような添加物と同じくもっと一般の消費者に広く知れ渡るべき事実だと思う。

酒呑みにありがちな我田引水的記述は微笑ましい。
「塩分摂取量」なんて項があり、「私にとっては、吟醸酒は血圧上昇の防止剤である。」だって(^^ゞ

日本酒は「甘口」「辛口」なんて表現するが、日本酒に辛い味などないという味についての話もある。当然!

なかなか良い本だったけど、プロローグにある「多くの吟醸酒ファンは日本酒嫌いである。」という記述には、「えぇっ、そうなの!?」って感じで驚いた。

(2007/12/18)

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