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●編集について なお第2楽章の編集には【その1】を採用した。 第3楽章の問題は終結にある。音的には421小節の1拍目で終わりにすればいいのだが、クレッシェンドしているし速いテンポで次の音が鳴ってしまうため尻切れトンボになってしまうのだ。 |
いきなり激しく始まる第1楽章は単純な動機による第1主題を含めてベートーヴェン風だ。
しかし、ベートーヴェン風シューベルトというのは、ベートーヴェンの二番煎じではないのだ。あくまでもシューベルトの個性にまで高まっている。
これが少し展開されるとシンコペーションのリズムに乗って第2主題が現れる。この第2主題こそシューベルト風シューベルト。まるで根無し草のように脱力している。第2主題部後半では高音三連符がキラキラと転がり、根無し草を遠い彼方から飾るようだ。ため息が出そうなくらい美しい。
第2楽章は冒頭から哀しい美しさが支配する。
共感は求めないし訴える事もしない儚さがかえって心に染み渡る。少なくとも最初の12小節間は連弾のため以外の何ものでもない音楽といえそうだ。
ラルゴは特にオーケストラであったらと無い物ねだりをしたくなる部分だが、音色を想像で補って我慢しよう。
終結のしつこい和音進行も意味深い。
第3楽章はスケルツォとはいえ真面目な音楽だ。ベートーヴェン風シューベルト。この楽章もオケで聴きたい。
第4楽章のロンドは、これぞシューベルト風シューベルト。第1楽章第2主題につながる魅力がある。ロンドだけで聴くとやや安っぽく聞こえることもあるが、通して聴くと純で素直な雰囲気に一層しびれる。
なんという自然さ。肩の力が抜けきった明るく透明なメロディ。漂う空気、さすらう魂、自己主張しない存在感。あるといえばあり、ないといえばない心。あまりのデリカシーに泣けてくる。
それにしてもこの二人による演奏は素晴らしい。連弾の愚鈍的響きがほとんどない。バランスも見事に調整されているし、和音における縦のアンサンブルが気持ち良く揃っているのが凄い。音色も盤上玉を転がすかのような美しさだ。
デュオ児玉によるウドの大木的響きの演奏を聴いて、この演奏の良さがいっそうよく分かった。