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演奏会日記

リリー・クラウス

1978年6月26日

虎の門ホール

モーツァルト・プログラム

 待ちに待ったリリー・クラウスのリサイタルだ。
 しかし、今日のクラウスは疲れていたのか最初の2曲(K.485、K.312)にミスが多かった。それでも、たゆたう感情の変化を微妙に描き出し、それが醸し出されるような魅力となり、瑞々しい音色がこんこんと溢れ出てきた。実に即興的に。K.485などまるで今まで聴いてきた曲とは別の曲のようだった。
 プログラムが進みミスが無くなると、もう完璧にクラウスの独擅場だ。
 K.332、K.455、K.281の3曲はまさに即興演奏の趣が強い。感情の赴くままに絶妙に、また大胆に揺れるテンポ、デリケートな弱音と辺りを睥睨するかのような強音、そして左手の洒落た和音の崩し方がなんてチャーミングなこと!
 それにしてもクラウスは綺麗。彼女にはピアノのある舞台がよく似合う。

1978年6月30日

虎の門ホール

モーツァルト:幻想曲ハ短調K.475 ソナタハ短調K.457

シューベルト:即興曲作品142から変イ長調,変ロ長調,ヘ短調

バルトーク:15のハンガリー農民歌と舞曲

ベートーヴェン:ソナタ第21番ハ長調作品52「ワルトシュタイン」

 今日のクラウスは絶好調だ。
 なんという即興性。微妙なテンポの揺れに伴うデリケートなニュアンスの変化、匂うような弱音に決してわめき立てない強音。これらが堅固な造形によって支えられているので、決して軟弱にはならないのだ。
 チェリビダッケに言えたように、クラウスの即興的なテンポ変化や強弱、すなわちアゴーギク、ディナーミクは「自然」なのだ!
 今日の演奏全てに最高の賛辞を与えても惜しくはない。あの即興曲の美しさと、ただただ呆気にとられて聴いたワルトシュタインの生命感は、忘れられないものとなるだろう。
 花束を抱いてお辞儀をするクラウスの姿があまりに美しく、また感動。


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